お堅い話題で
2015.04.13
ブログ
本年度の税制改正はBEPS対策として法人税、所得税、相続税及び消費税の
国際課税の分野で大ナタが振られました。
消費税の課税の対象は消費税法4条で規定されているとおり、国内取引及び輸入取引
に限られるので、国際課税という言い方は相応しくないかもしれませんが、
その4条の守備範囲を広げたのが、今回の消費税改正の目玉であると言えます。
電子商取引を行う国外事業者である●MAZONと国内事業者との価格競争力の是正が
背景にあると思われます。
税制は社会の鏡とも言われおり、導入の経緯・変遷を調べると色々なことが
見えてきて面白いです。今回は法人税法について少し語らせていただきます。
企業の粉飾決算が横行していた高度成長期に、税制の面から粉飾決算の抑制を図る為、
昭和41年に法人税法129条(仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に関する特例)
が導入されました。
これは「仮装経理を行って過大申告を行った場合には、修正経理を行わない限り、
税務署長は減額更正を行わないことができる」というもので、
この規定は法人税法135条(更正に伴う法人税額の還付の特例)とセットで運用されます。
銀行から借金をしたい企業は、利益を多く見せるために
架空売上の計上、経費を抜くまたは棚卸資産の過大計上などの粉飾決算を行って、
実際よりも過大な所得を申告して余計な税金を払うことがあります。
例えば甲株式会社がX1年度に棚卸資産を適正額よりも1億円過大計上したとしましょう。
利益が1億円嵩上げされたことで申告税額が適正税額よりも2,550万円増えるので、
X1年度に係る税務調査が入ったとしてもお咎めはありませんが、
この棚卸資産1億円をX2年度の売上原価として損金算入できるのでしょうか。
法人税法の立場に立つと答えはノーです。
この売上原価1億円はあくまでもX1年度の収益に係る原価の額として
X1年度の損金の額に算入しなければならなかったものだからです。
これは法人税法22条の「その事業年度の損金の額は、その事業年度の収益に係る
売上原価、完成工事原価、その他これらに準ずる原価の額」を根拠とします。
従って、甲株式会社がX1年度の仮装経理法人税額2,550万円を取り戻すためには、
X2年度(X1年度の法定申告期限から5年以内の法定申告期限に係る各事業年度)の決算において
(借方)前期損益修正損P/L 1億円 (貸方)棚卸資産B/S 1億円
と経理し、さらに申告書(別表4)で1億円の加算調整を行い、
過去の仮装経理を自発的に認めた上で、更正の請求をしなければならいないということになります。
(大阪地裁平成元年6月29日判決より)
X2年度の損金として認められる前期損益修正損は、
X1年度に計上した売上についてX2年度に返品されて取消し修正するなど、
X2年度において損失の原因事実が発生したような場合に限られますので、
この事例の場合は、X2年度の損金の額とすることはできません。
(東京地裁平成22年9月10日判決より)
これは法人税法22条の「その事業年度の損金の額は、その事業年度の損失の額で
資本等取引以外の取引に係るもの」を根拠とします。
また、甲株式会社が「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の適用会社なら、
(借方)繰越利益剰余金当期首残高S/S 1億円 (貸方)棚卸資産B/S 1億円
(過去の誤謬の訂正に伴う修正再表示による累積的影響額)
と経理し、過去の誤謬の訂正を行った旨を個別注記表に記載することで、
更正の請求の前段階の要件を満たすことになります。
(国税庁:法人が「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を適用した場合の税務処理より)
なお、仮装経理法人税額の還付の取扱いは、国税通則法に基づく原則の場合とは異なります。
仮にX3年度に税務署長による減額更正が行われた場合は、X2年度の確定法人税額を限度
として還付され、残りはX3年度以降5年間の繰越控除方式によることになります。
還付加算金も貰えません。
粉飾決算は、会社法、金融商品取引法に違反する行為です。従って、会社法の特別法である法人税法
もその抑止をする立場でなければならないため、このような規定が設けられているわけですが、
実際には租税特別措置法62条(使途秘匿金に対する特別税額)のような不正経理に対する抑止力には、
なっていないのが現実だと思われます。
129条は最近二度の改正がありましたが、今後も動向を見守りたいと思います。
※この記事は私個人の主観によるものであり、当ブログの読者の方々の知識・判断・行動を担保するのではございませんので、国税通則法、法人税法、上記判例その他国税不服審判所平成17年2月24日裁決事例も参照した上で、自己責任でご判断・行動していただきたいと存じます。
財務支援 田中